御曹司を探してみたら

「このあとどうする?」

「どうするって?」

「今日は飲みに行かねーのか?」

「もうお酒はこりごりだもん……」

飲みに行くような気分には到底なれそうもない。

「今日は帰るね……」

私はそう言うとひとりお通夜のような暗い雰囲気を身に纏いながら、改札を通り抜けたのだった。

電車はまだ走っている時間だし、今なら武久に頼らなくても一人で帰れそうだ。

すっかりショボくれながら階段を上り、ホームで電車を今か今かと待っていると、先ほど別れたはずの武久がなぜか私に寄り添うようにして立っていて驚愕した。

「送ってやるよ」

「いいよ……」

武久にこれ以上迷惑かけるのは気が引ける。いつも迷惑かけまくってるくせに何言ってんだって感じだけど。

「いいから。今日くらい黙って送られとけよ」

コツンと額に受けたデコピンがむず痒かった。

……気を遣われているのは明らかだった。

武久らしからぬ言動にいちいち身構えてしまうのは怒鳴られ慣れているせい?

そういえば酔っていない素面の状態で、家まで送ってもらうのは久しぶりかもしれない。

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