御曹司を探してみたら
「杏、大変よ!!」
「わかっち?」
なんと冷静沈着がモットーのわかっちが取り乱した様子で、人込みを縫うようにして私の元まで走ってやって来たのだった。
「ちょっと来て!!」
「え!?何?どういうこと!?」
「いいから!!」
大変って……。
私も武久のことで頭一杯で、それどころじゃないんですけど!?
わかっちの走るスピードは私をとらえた後も緩まない。腕をもぎ取られる勢いで拉致られ、廊下を駆け抜ける。
エレベータホールのその先、目立たない小さなドアを開けスルリと中に入ると、わかっちは急かすように手招きした。
「杏!!こっち、こっち!!」
わかっちが入るように促したそこは模型の材料やら、あえなく没になったデザイン画を置いてある倉庫である。
(すごい、忍者みたいだよ!!わかっち!!)
物でごった返しているこの倉庫でどうしてそんなに素早く動けるのか。
私は肩に降りかかってきた埃を払いながら、ウサギのような俊敏さを見せるわかっちの跡を追った。