御曹司を探してみたら
「わかっち……」
一体どうしたの?と続けようとすると、わかっちがシーっと唇の前に指を立てた。
この倉庫、廊下とは反対側にある扉は意匠設計部へと繋がっている。
つまり、あの黒山の向こうで何を言い争っているのか、盗み聞きにはもってこいの立地なのである。
仕方なく大人しくなって意匠設計部側の扉に頭を縦にふたつ並べ、ぴたりと耳をつける。
『お前を遊ばせておくためにこの会社に入れたわけじゃないんだぞ!?』
『知るかよ』
(おお!!よく聞こえる!!)
扉一枚隔てた向こう側の声がここまでクリアに聞こえるものなのかと感動すると同時にこの騒動の発端となっている人物の心当たりが浮上する。
(もしかして武久なの……?)
頭上のわかっちと目が合うと、彼女は真剣な表情で頷いた。
どうやら言い争いをしている片割れは本当に武久らしい。
ここまでくると、今度は相手が気になってくる。
私は好奇心に負けると、あちら側にバレないようにすこーしだけ扉を開けてみた。
灰色のスーツを着た壮年の男性の顔がちらりと見えたところで、急いで扉を元の位置のように閉める。