御曹司を探してみたら

『いいか?もう一度聞く。この女性は誰だ?』

『知らねーよ。知ってても言う訳ねーだろ』

『肩まで抱いておいて、今さら他人の振りで通じるとでも思っているのか?』

『っつーかその写真も俺じゃねーし』

『私がお前の顔を間違えるはずないだろう』

『老眼じゃねーの?眼科でも行ったらどうだ?』

辺りに漂う空気は完全に凍り付いていた。

わかっちのブリザードよりも酷い絶対零度。もしくはカラカラに渇いたドライな砂漠。

どちらにせよ草の根一本も生えない不毛地帯である。

会話の内容から察するに、どうやら二人は女性問題で揉めている模様である。

(めっずらしーこともあるもんだなあ……)

入社して以来、武久の浮いた噂を聞いたことがない。

モテないわけでもない。

実際、黙っていれば見てくれはまあまあだから、口が悪い、直ぐ怒鳴るという悪評が伝わる前の新入社員などには人気が高いらしい。

分からないのはなぜ周防社長が武久の女性問題を気にするのかということである。

わかっちも私同様、首を傾げている。

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