御曹司を探してみたら

「すんごいわねー。御曹司サマってやつは……」

ああ、そういえばひとりだけいたな。

……禁断の話題に触れてくる鉄の心臓の持ち主が。

意匠設計部のフロアを出て、休憩コーナーの隅っこにあるテーブルでチビチビと缶コーヒーをすすっていると、いつの間にやら傍らにわかっちの姿があった。

「そうだね」

さすが、わかっち。私の心情などおかまいなし。

土足でずかずか足を踏み入れてくるその根性は称賛に値する。

わかっちは勝手に反対側の椅子に座ると、持参した紙パックのオレンジジュースを飲み始めた。

「びっくりしたよねー。まさか、あの武久が周防の御曹司様なんて……。杏は知ってたの?」

「……私だって知らなかったよ」

知っていたら今頃こんなに窮屈な思いはしていないだろう。この件に関してはとばっちりもいいところである。

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