御曹司を探してみたら
「ふ~ん。あ、そう。“何も”なかったんだ~?」
追究の手を緩めるどころかニッコリ微笑んで、私の目を見つめてくるではないか。
(“何も”なかったわけじゃないけど……)
……正確に言えば“何か”あったのはその後である。
ただ、余計なことを言ってわかっちを喜ばせるのも癪である。
「ねえねえ?いい加減、白状したら~?」
「しつこいよ。何もなかったって言ってるじゃん!!」
嫌がらせのようにプスプスと頬を指でつつかれても、ガスガスと脛を靴先で蹴られようとも、ひたすら口をつぐんでやり過ごす。
あーあ。何で私の方が必死になってるんだろう。
本来なら身の潔白を証明すべきは、御曹司である武久の役目ではなかろうか?
……そうやって、この場にいないことをいいことに武久に責任の所在をなすりつけようとしたのがいけなかったのだろう。
「あ、武久」
事情聴取がようやく終わりエレベーターから降りてくる武久をわかっちが発見したのは、本当にまったくの偶然である。