御曹司を探してみたら
「……た、武久!?」
私は素っ頓狂な声をあげると、背筋がピーンと伸び切った姿勢で固まってしまった。
ドキンドキンと心臓が急に痛くなってきて、汗が異常なほど吹き出てくる。
……何かがおかしい。
そう思ってはいても動悸は収まらず、なにやら吐き気までしてくるではないか。
「お~い。こっちこっち」
わかっちは大きく手招きして、武久をこちらに呼んでいる。
(ああっ!!こっちに来ちゃう!!)
私はとるものもとりあえず、テーブルの脚に小指をぶつけながらもその場から立ち上がった。
「わ、わかっち!!わわ、わたし、ト、トイレに行ってくるね!!」
しどろもどろになってそう叫ぶと、ぶつけた小指の痛みをこらえながらトイレに向かってひた走るのであった。
(なんで走ってるのよ、私!!)
これ以上かつてないほどの悪手に、ウガー!!と我ながら憤慨してしまう。
……これではまるで武久から逃げているみたいじゃないか!!