御曹司を探してみたら
「見てたんなら助けろや」
「うぎゃ!!」
……一体どんな手を使ってマドンナを振り切ったのか。
リンゴを握りつぶすように後頭部を鷲掴んで捕獲され、身長が3ミリは縮んだに違いない。
「また盗み聞きとは懲りない奴だな、お前も」
その口調があからさまに怒気をはらんでいるのは、先日から私が散々逃げ回っていたせいだろうか。
「……邪魔しちゃ悪いかと思って」
頭を押さえつける腕をはたきふいっと顔を背けると、武久を置いてすたすたと歩きだす。
マドンナに迫られてへらへらしていたくせに、どの面下げて私を非難するというのだ。
あー忙しい。
鼻の下を伸ばしてるどこかの誰かさんの代わりにわんさか仕事をこなさないといけないものですからね?
「早宮」
呼びかけられてもツーンとそっぽを向く。
「おい、無視すんな」
無視とは人聞きの悪いことを言うじゃない?
「なんですか?周防の御曹司サマ」
お望み通り返事をしたにも関わらず、武久の反応は思わしくなかった。
「……その言い方はやめろよ」
あまりに苦々しげに言うものだから、私も感じが悪かったなと少し反省する。
「ごめん……」
武久は今度こそ逃げられないように私の退路を断つように壁際に追いやり、前方に立ち塞がった。