御曹司を探してみたら
「……焼肉奢ってくれたら全部チャラにする」
そう言うと武久は滅多に見せない微笑み浮かべ、私の頭をぐりぐりと撫でまわした。
「今日、駅前の六角亭に19時集合な」
「了解っ!!」
待ち合わせの約束に敬礼ポーズで応えると、妙にうきうきとした気分になった。
武久と別れ、デスクに戻る足取りも軽い。
(やっきにく、やっきにく!!)
へたくそだと定評のあるスキップで助走をつけ、ターンして華麗に椅子に着地する。
「どうしたの?」
わかっちは先ほどとは打って変わって上機嫌になった私にぎょっと目を丸くしてした。
「なんでもな~い」
うふふとこみ上げてくる笑みを書類で隠し、私は残りの業務に精を出すのであった。
しかし、このまま平穏無事な生活が送れるほど世の中そう甘くはないのである。