御曹司を探してみたら
「私はカルビと牛タンが食べたいなー。武久は?」
「あー……俺は……」
メニューに手を伸ばしかけた武久の手が急に止まり、ある一点を見つめ始める。
「武久……?」
かと思えばおもむろにジャケットとビジネスバッグを小脇に抱えだす。
「……店、出るぞ」
「え!?」
お店を出る!?
「なんで!?今来たばかりだよ!?」
「いいから出るぞ!!」
強引に椅子から引っぺがされ、武久に言われるがままに慌ててお店から出る。
そのまま大通りに出て駅まで早足で向かうと、何者かが私達の後を追いかけるように走ってくるではないか!!
「ちっ!!やっぱり監視されてんな!!」
後ろを振り返りながら、武久がクソッと悪態をついた。
「監視!?」
聞き捨てならない物騒な単語が飛び交う中、武久が私の手を握る。
「こっちだ!!」
おりしも帰宅ラッシュの時間帯である。
駅へと向かう人込みに紛れるようにして、私達は追っ手を振り切るべく駆け出したのだった。