御曹司を探してみたら

「食べるか?」

そう尋ねる武久の手にはコンビニで買ったと思しき焼肉弁当がふたつ乗っけられていた。

「食べる……」

やだ、もう……。

なんで長年こいつと友達やってて気づかなかったんだろう。

自分の鈍さを呪うか。武久のステルス技術を呪うか。

六角亭のカルビを食べ損ねた私は仕方なく焼肉弁当をつつきながら、いざ本来の目的を果たそうと口を開いたのである。

「んで?何で私が監視されなきゃいけないわけ?」

こちとらそれが聞きたいがために、この魔窟までノコノコやってきたんだ。手ぶらでは帰れません。

武久は食べかけの焼肉弁当をテーブルに置き、ペットボトルのお茶を飲むと口を拭ってこう言った。

「……あの後、田辺から連絡はあったか?」

なぜこのタイミングで田辺さんが出てくるわけ?

核心に触れるのを避けるような、曖昧な問いかけには首を傾げるしかない。

どうしてこの期に及んではぐらかそうとするかなあ?

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