ばいばい、津崎。
1: 青鈍―Aonibi
夏は嫌いだ。
このまとわりつくような暑さも、耳障りなセミの声も、なにもかもが大嫌い。
時刻は8時26分。埼玉県にある大宮から快速電車に乗り込んで、今日も息苦しいほどの満員電車。
かろうじて指先が銀色の手すりに触れているけれど、電車が揺れるたびに人の波が一斉に傾いて「おっと」と、横にいた50代ぐらいの男性がもたれ掛かってきた。
私の耳には白いイヤホン。スマホと繋がっている音楽プレイヤーをスクロールしながら、無表情でアーティスト欄から曲を選ぶ。
ぶつかってきた人も謝ることはせずに額に滲む汗をハンカチで拭いていて、足を踏まれようとカバンの角が身体に触れていても、なにも気にしない。
朝の通勤ラッシュは戦場だ。そんなこと、いちいち気にしていたら仕事になんか通えない。
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