ばいばい、津崎。
このマラソンは一年生だけの必須科目で、上級生は通常授業。マラソンが終わったあとは三時間授業と同じぐらいの早さでそのまま帰ることができるけれど、誰も遊びにいく気力がないほど疲れきってしまうことで有名だ。
グラウンドにはA組とB組の生徒が集まっていて、その中に津崎の姿を発見した。
来るかどうか不安だったけれど、参加しなかったら小島まで泳がなきゃいけないしどっちにしても過酷だから、来てくれて良かった……。
時刻は9時になり、体育教師から簡単な説明をされた。
「ルートは事前に配ったプリントに記載されていたとおり変更はありません。各ポイントに教員が立ってるから別のルートを使って近道をしようなんて思わないように」
おそらく実行しようとしていた人は何名かいたようで、顔を見合わせて「ダメじゃん」と落胆していた。
しっかりと準備運動をしたあとにグラウンドから移動して、スタート位置は学校の正門の前。
陸上部に所属している人や自信がある人たちは最前列に並び、私と美貴は平均タイムを越えないようにゴールさえできればいいので後ろのほうへと並ぶ。
私たちの前には剛がいて、哲平の背中も確認できる。
「はあ、始まっちゃうよ……。面倒くさいね」
美貴が隣でため息をついていて「そうだね」と返したところで、ふと隣を見ると津崎が立っていた。
「うわ、いたんだ。ビックリした」
ずいぶん背の高い人がいるとは思ってたけれど、スタートするのが嫌すぎて、隣に意識が向いていなかった。
津崎はもちろんマラソン大会に乗り気じゃないようで、ものすごく不機嫌だ。
「が、頑張ろうね……!」
ありきたりな言葉しかかけられず、津崎はチラッと横目で私のことを見た。
「馬のしっぽみたい」
「う、うま!?」
その瞬間、スターターピストルの「パンッ!!」という渇いた音が鳴り響き、一斉にみんな走り出す。
私も遅れないように走りながら、右手で結んである髪の毛を触った。
……馬のしっぽって、たぶんコレのことだ。相変わらず失礼なヤツ。