ばいばい、津崎。


我慢しながら暫く走っていると、前方によろよろとした足取りの人を発見した。

あの背格好はたぶん、剛だ。


たしか男子って10kmだよね?剛がここまで走ってきたなんてすごい……。

声をかけようと思った矢先、突然剛が道路脇の草むらへと倒れこんだ。顔を見合わせた私と美貴は急いで剛の元へ。


「……だ、大丈夫っ!?」

慌てて駆け寄ると、剛は酸欠のように真っ青な顔をしていた。そして「もうダメ……。一歩も動けない」と、涙目になっている。


その瞬間、おぼろげだった記憶が繋がっていく感覚がした。

……そうだ、思い出した。


10年前も、たしか剛はゴールまであと1kmというところで倒れたのだ。

それで私たちはリタイアするように勧めたけれど、『ここまで頑張ったのに無駄にしたくない』と剛は言った。そんなやり取りをしている時に、通りかかったのは……。


「どうしたの?」

そう、哲平だった。

私が体験してきた出来事とピタリと重なった。


「倒れちゃったんだけどリタイアはしたくないって……」

美貴が哲平に説明をしている。哲平は片ひざをついて剛の体調を確認するように顔色を見た。


「ちょっと熱中症になりかけてるのかも。俺、先生呼びに行こうか?」

ここからだと折り返し地点に立っていた先生よりも、ゴールで待っている先生との距離のほうが近いと、哲平は冷静に分析する。

だけど、それを止めたのは剛だった。


「……待って。大丈夫だからっ。俺走るから……」

剛はなんとかして立ち上がろうしたけれど、まだ足に力が入らないようですぐに尻もちをついてしまった。

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