ばいばい、津崎。


「あれ、つかない」

火は導線を進んでいったのに、噴き上げ花火に変化ない。


「消えたんじゃない?」と美貴が言い、哲平がもう一度ライターを持って筒の側へ。その瞬間、バチバチと音をたてて急に花火が空へと噴き出した。


「あっつ……!」

「あはは、哲平ダサい!」

他人事のように笑う美貴と剛。


この噴き上げ花火は線香花火が進化したもので、バチッバチッと、まるで花のようないくつもの線香花火が空中で一斉に咲く。


「……綺麗だね」

自然と、ため息をはくように呟いていた。


べつにこれはただの独り言で返事を求めていたわけじゃない。だけど隣から「そうだな」と、津崎の声が聞こえてきて私は泣きそうになった。


私の願いは、ただひとつ。

津崎と来年も再来年も10年後も、こうして隣で花火を見たい。

噴き上げ花火の時間はわずか30秒ほど。綺麗だった花火はただの儚い煙となり、潮風に混ざって火薬の匂いが私たちの頬を通りすぎていく。


「終わっちゃったね」と私が言うと「……そうだな」とまた同じ言葉が返ってきた。

その横顔を見ると、とても切なそうな瞳をしていて、空に溶けていく煙を津崎はいつまでも見上げていた。

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