ばいばい、津崎。


「これ、まだ飲んでないからあげるよ」

それでも哲平はなにも聞かずに冷たいお茶をくれた。

お礼を言ってゴクリとひと口飲むと、少しだけ気持ちが落ち着いた。


そのあとは怪しまれないように私もパンを食べた。正直、あまり味は感じられなかった。

昼休みが終わるチャイムが校舎に鳴り響き、私たちは教室へと戻る。B組に入る直前に「皐月」と、哲平に呼び止められた。


「きょ、今日また子猫を見にこない?」

それは少し緊張を含む上擦ったような声だった。

私の元気がないから誘ってくれたのかもしれないし、哲平なりに気分転換にでもなればと思ってくれたのかもしれない。


「……ごめん。今日は用事があるんだ」

だけど、私は断ってしまった。

子猫を見て癒されたい気持ちはあったけれど、津崎のことで頭がいっぱいで、きっとまた上の空になってしまうから。


「そっか。じゃあ、また今度」

哲平は残念そうな顔をしながら教室へと入っていった。          
 
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