ばいばい、津崎。


「おばさん、いくら持ってんの?」と、男たちが無理やりカバンを取ろうとしたので私は自転車を降りて駆け寄った。


「なにしてるんですか?警察呼びますよ」

弱い女性にお金をたかるなんて、本当にカッコわるい。


「は?きみ誰?もしかしてこのおばさんの娘?」

男たちの関心が女性ではなく私に向く。

「つか、女子高生じゃん。なに?きみがおばさんの代わりに誠意を見せてくれるの?」と、なめ回すように下から上へと視線を送られた。


「ってか、もう警察呼びました。たぶんもうすぐ来ますよ」

私が冷静にそう言うと、男たちは顔を見合わせて「ちっ」と舌打ち。そして諦めたようにその場を去っていった。


「大丈夫ですか?」

私はすぐに女性に声をかける。


「ありがとう。おかげで助かったわ。お名前、聞いてもいい?」

「山本皐月です」


名前を名乗ったあと、女性を改めてよく見ると、それは見覚えのある顔だった。

……あれ、この人……。


「皐月ちゃんね。その制服ってことは高校生よね。何年生?」

「え、えっと、1年です」

「あら、じゃあ、うちの息子と同級生ね」


優しい顔つきの中で重なる〝ある人物〟との面影。目もとがすごくそっくりで、マニアックなことを言えば耳の形も似ている。


「津崎……いえ、健太くんのお母さんですよね?」

確認するように尋ねると「ええ、そうよ」と微笑む。笑う時に目じりが下がるのも津崎と同じだ。

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