ばいばい、津崎。
「あ、えっと……」
完全に油断していた私はうまく喋ることができない。すると、津崎のお母さんがここに至るまでの経由を説明してくれたけれど、津崎は怖い顔のまま。
そのあと津崎は冷蔵庫からペットボトルのミネラルウォーターを取り出して乱暴に扉を閉める。
たぶん、この不機嫌な態度は私に対してだと思う。
理由はどうあれ、津崎になにも言わずに家にお邪魔してしまったから。
「健太、体は大丈夫?食欲は……」とお母さんが口を開くと、まるで口止めしているかのような目つきで睨み、言葉を最後まで言わせなかった。
津崎のお母さんは雰囲気を変えようと「さ、皐月ちゃん。オレンジジュースまだたくさんあるからね」と勧めてくれたけれど、この空気は明らかに不自然だ。
やっぱり、津崎にはなにか秘密がある。
自分の部屋へと戻っていく津崎を、気づくと私は追いかけていた。
津崎の部屋は私と同じ西側で、とても日当たりがいいけれど、夏の間は扇風機をフル稼働させていないと息苦しいぐらい太陽の光が強い。
私とは違い、シンプルな部屋だ。
物が少なくて、きちんと整理整頓されている。
すごい意外だ。学校で配られたプリントはぐちゃぐちゃにして机に突っ込むくせに。
「大丈夫なの?」
私は開けっぱなしのドアの前に立つ。足音で私が追ってきたことを知りながらも、津崎はそのままベッドに横になった。