ばいばい、津崎。


「なにが」

「体調とか……今日も学校にこなかったでしょ」

返事は返ってこなかった。津崎の背中越しから感じるピリピリとした空気。

部屋ではそんな雰囲気とは真逆のとてもしんみりとしたバラードがMDコンポから流れていて、それは津崎の好きな歌。

私が未来できみを恋しく想い、スマホにダウンロードしてしまったあの曲だ。


「……津崎ってさ、こういうラブソング好きだよね」

女々しいのは嫌いそうなのに、歌詞は手を繋いでとか、会いたいとか胸焼けしそうなほど甘い。


「このバンドの曲で、すごい良い歌があるんだよ。今は聴かせられないけど」


だってそれは未来で発売される15枚目のシングル曲だから。テレビ番組で聴いた瞬間、『あ、津崎が好きそうだなあ……』なんて、ひとりで缶ビールを飲みながら思ってた。


「お前、俺に追い出されないようになんとか話を繋げてるだろ」

相変わらず、津崎は背中を向けたまま。


だってこれはチャンスだよ。津崎の部屋に上がることなんて、この先はないかもしれない。

ここは津崎のテリトリー。いつも他者を寄せ付けないオーラを放っている津崎の一番私生活の匂いがする場所。

防御なんてなにもない柔らかい部分に私は立っていて、今なら勢いで踏み込めると思った。

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