ばいばい、津崎。
「帰れ」
「イヤだ」
そんな押し問答が3回続いて、次第に津崎の声が荒々しいものになっていく。そして「お前なあ……」とスプリングが軋む音とともに津崎がベッドから起き上がろうとした。
それよりも速く動いたのは私のほう。
同じ目線になるために床に膝を着いて、上半身だけをこちらに向けている津崎に私は〝あるもの〟を差し出す。
「これ、なに?」
自分の声がひどく蚊の鳴くように弱々しい。
津崎に見せたのは、昨夜拾った薬。瞬時に津崎の目が泳いだのを私は見逃さない。
バッと津崎は薬を私から奪い取った。そして再び避けるように私に背を向ける。
「ただの風邪薬だよ」
横になったまま津崎は白い壁に声を飛ばす。大きいはずの背中が、何故かとても小さく見えてしまった。
「嘘つかないで」
「嘘じゃねーよ」
顔が見えない。ほら、また逃げる。