ばいばい、津崎。
「……津崎は、なにを隠してるの?」
胸の奥がずっとざわざわして気持ちわるい。きみを救えずに自分の無力さを嘆いたあの時の感情に似ている。
「なにも隠してない」
「ちゃんと目を見て言って」
それでも津崎の体勢は変わらずに、ふたりきりなのに、まるでひとりでいるみたい。
「ねえ、答えてよ、津崎」
私はスウェットの裾をぎゅっとした。
「帰れ」
「こっち見て言って!」
「……帰れ、山本」
最後に返ってきた言葉は、とても弱かった。こんなに切なく私の名前を呼ぶ津崎を今まで聞いたことがない。
きっと、精いっぱいの言葉だったのだろう。
本当は抱きしめたかったけれど、それを望んでいないことは背中で伝わってきた。私はゆっくりと立ち上がり、ドアのほうへと向かう。
「学校で会えないなら、明日もくる。明日も津崎に会いにくるから」
そう言って、部屋を出た。
そしてリビングにカバンを取りにいって、津崎のお母さんは玄関まで見送ってくれた。
「ごめんなさいね」と、なぜか謝られて、壁は薄いしドアも開けっぱなしだったから、私たちの声が聞こえていたのかもしれない。
それが、なにに対しての〝ごめん〟なのかは、私には分からない。