ばいばい、津崎。
6: 瑠璃紺―Rurikon





そして次の日。教室のドアを開けると、そこには津崎がいた。窓際の一番後ろの席で微動だにせずに寝ている。

「おはよう、皐月」と、声をかけてくれたのは美貴。


「う、うん。おはよう」

私は挨拶を返しながらも、視線はずっと津崎に向いたまま。とりあえず学生カバンを自分の机の横にかけた。


「健ちゃん、学校に来たね」

「そう、みたいだね」

てっきり今日も学校に来ないと思ってた。すぐに声をかけようとしたけれど校舎に予鈴が鳴り響き、担任が教室に入ってきたので、私はタイミングを逃すように諦める。

そのあと出席番号順に点呼をとり、クラスメイトたちの返事が聞こえる中で、津崎は名前を呼ばれても返事をしなかった。

それどころかずっと顔は机に伏せたまま。担任は深いため息をつきながら、津崎の次の人の名前を呼んだ。


……もしかしたら、具合が悪いのかもしれない。

私が昨日帰り際に、『学校で会えないなら、明日もくる。明日も津崎に会いにくるから』なんて押し付けるようなことを言ったから、ムリをして登校してきたんじゃないかって、考えた。

だけどホームルームが終わり、休み時間になっても津崎と話すことはできなかった。


正確には、無視された。

呼び掛けても反応してもらえずに、「うるさい」と小言を言われることもない。

私が透明人間になったのか、それとも津崎が透明人間になったのか、どっちにしても同じ空間にいるのに意志疎通ができない。

話しかけるな、と睨まれたほうが、よっぽどマシだと思った。

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