ばいばい、津崎。
「健ちゃん、なんか様子がヘンだよね」
「俺たち怒らせるようなことしたかな」
私と同じように美貴と剛も何度か話しかけていたけど、もちろん反応は返ってこなかった。
まるで、誰とも馴れ合わなかった頃に戻ってしまったかのように。
美貴や剛はわるいんじゃない。これはきっと津崎が私たちに対して一線を引いているのだ。心の奥に踏み込まれないように、気づかれないように。
スッキリしない気持ちが続き、放課後になった。来週から夏休みということで配られるプリントが多くて、いつもより担任の話が長い。
そんな帰りのホームルームに、津崎はいなかった。
そしてもうそろそろ話が終わろうとしている時に、廊下がザワザワと急に騒がしくなった。すでに帰宅しようと教室を出ていたA組の生徒たちが落ち着かない様子で廊下を行ったり来たり。
「どうした?」
ただならぬ空気に担任が教室から顔を出して、近くにいたA組の生徒に尋ねる。
「向こうで、津崎くんが3年生とケンカを……」
その声は私を含めたクラスメイトたちの耳にも届き、ひとりのお調子者が「見に行こうぜ!」と立ち上がると、それに続くようにみんな廊下へと出ていってしまった。
「……たく」
担任は苦い顔をしながらホームルームを切り上げて、ケンカをしている場所へと向かう。
私と美貴と剛も瞳で頷き合い、津崎のもとへと走った。