ばいばい、津崎。
「一方的にって先輩は言ってますけど、津崎くんもケガしてますよね?」
哲平は人混みからみんなの目に映る場所に出てきた。そして先生に取り囲まれている津崎に近づく。
「健太、本当のことを言わなかったらなにも分からない」
諭(さと)すように、哲平は問いかける。津崎は目線を落として、ぽつりと呟いた。
「……向こうから喧嘩を売ってきた」
「先に手を出したのは?」
「俺じゃない」
その言葉を聞いた3年生は「嘘ついてんじゃねーよ!」と声を荒らげてわざとらしく腹部が痛いフリをする。
先生たちは顔を見合わせているけれど、その表情はどこか納得していないような感じだった。
「俺は津崎くんを信じます。だから先生たちも色眼鏡で見ずに、ちゃんとした判断をしてください」
学校で一番素行が良く、信頼も厚い哲平の言葉はかなりの効果があったようで、津崎に対する風当たりが急に柔らかいものへと変わった。
後日、互いの話を聞くということになり、養護教諭はその場で3年生の手当てを。
そのまま帰ろうとする津崎を哲平がひき止めて、私が保健室へと連れていくことになった。
おそらく、ふたりきりにしてくれたのは哲平の気遣いだ。勘が鋭いから私の津崎への気持ちなんて、すでにお見通しなのだろう。