ばいばい、津崎。
その言葉に津崎は無言だった。
申し訳ないって思ってるのかもしれないし、鬱陶しいと感じているのかもしれないし、私は津崎の心を読むことはできない。
「みんな心配してるよ。夏休みにいっぱい遊ぶ計画たててたのにどうしようって。どうやって津崎を誘い出すか、美貴と剛はそればっかり相談してる」
すべての予定の中に、津崎はいる。どんなに無視されても外そうなんて、誰も考えない。
「……俺のことなんて、放っておけばいいのに」
その小さな声は、ちゃんと私に聞こえてきた。
きっと今の津崎はそれを望んでいるのだろう。
嫌ってくれたらいいと、寝たふりをしながら思っていたのかもしれない。
「……津崎はさ、自分で気づいてないだけで、人を惹き付ける魅力がある人だよ」
私はじっと、津崎の目を見た。
今日初めて目が合った。たったそれだけのことなのに、どうしてこんなにも胸が高鳴るのだろう。
私は血を綺麗に洗い流したワイシャツをそっと津崎に渡した。
「みんなが気づいたんだよ。津崎は口が悪くて勘違いされやすいけど、本当は優しいところもあるってこと。それで友達になりたいって思っちゃったから、もう無関係ではいられないよ」
すでに、美貴や剛や哲平の深い関心の中に津崎はいるのだ。
「……バカだな」
津崎がぽつりと、呟く。
みんなを遠ざけたい理由が津崎にはある。それをムリして聞き出そうとしても、津崎はなにも言わないだろう。
しつこくすればするほど、きっとその心は固く閉じるだけ。
だからせめて、ひとりじゃないことを知って。
津崎を必要としている人がいるということ。拒絶されても繋がっていたいと思う人がいるということ。それだけは忘れないで。
それがいつか、津崎の心の支えになるかもしれない。
なってほしいと、私は強く願う。