ばいばい、津崎。


「俺は美貴にも優しくしてるつもりだよ?」

冗談なのかどうなのか分かりづらい返しを哲平がした。


「んーでもなんか違うんだよね。私には下心はないけど、皐月にはあるように見えるっていうか――」

「……もう、美貴っ!」

なにか良からぬことを言い出しそうな雰囲気だったので、私は慌てて止めた。

そんなやり取りをしている間に、玄関から続く廊下の軋む音が聞こえ、ガチャリと部屋のドアが開く。


そこには少しだけ息をきらせた津崎の姿。ちょうどリュックから数学のプリントを取りだそうとしていた私は目が合い、お互いに一瞬だけフリーズする。


「みんな遅くなってごめんな」

その後ろから剛が顔を出し、津崎がなにやら険しい顔で睨み付ける。 


「てめえ、言ってた話と違う――」

「さて、健も揃ったことだし、さっさと課題やろうぜ」

「おい」

ふたりの状況が理解できないけれど、津崎の口調からして、どうやら力ずくで連れてこられたのではなく、剛にうまく言いくるめられてしまった、という感じだった。

どんな嘘をついて剛が津崎を外に連れ出したのかは知らないけれど、私は津崎が来てくれて嬉しい。


美貴も「剛、やるじゃん」と美貴は褒めていて、哲平は「健太、ここ座れよ」と、床を指さす。

津崎は深いため息をはいて、しぶしぶ言われた場所に座った。

< 161 / 212 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop