ばいばい、津崎。
たしかに今日はいつもより暑い。朝のニュースでは最高気温が35℃以上になるって言ってたような気がする。
「だから俺の部屋は狭いしエアコンないけどいいのって聞いただろ」
美貴の言葉にやる気を失った剛がシャーペンをテーブルに置く。
剛の部屋は狭いというより、アニメのフィギュアとグッズで溢れている感じ。美貴は勉強に飽きたように頬杖をつきながら、指先で髪の毛をくるくるとさせる。
「だって剛の部屋なら散らかしても大丈夫そうじゃん」
「散らかすつもりで来たのかよ」
ふたりが言い合いをしてるのを止める気力がないほど、私も暑さで頭が回らない。
ふと、隣を見ると騒がしいのも気にせずに、津崎が珍しくプリントと向き合っていた。
「つ、津崎が勉強してるところなんて初めて見た……」
課題なんてくだらねえ、とか言いそうなのに、私よりも進めるスピードが早い。
「お前は授業中けっこう真面目なのに、あんま頭よくねーよな」
「……津崎よりはできるよ!」
「じゃあ、この問題わかる?」
津崎が指さしたのは数学の問5の数式。しかも私の苦手な因数分解。私が頭を悩ませていると津崎がバカにしたように鼻で笑った。
「やっぱりできねーじゃん」
「つ、津崎だってどうせ解けないでしょ!」とムキになったところで、「ふたりともうるさいよー」と、先ほどまで騒がしくしていた美貴に叱られてしまった。
結局、勉強モードじゃなくなってしまった私は気分転換に立ち上がる。
「剛。コップと氷借りてもいい?みんなの飲み物もぬるくなっちゃったでしょ?」
ペットボトルの飲み物は半分以上残ってるし、だったら氷を入れて冷やしたほうがいいと思って。
「うん、勝手になんでも使っていいよ」と返事が返ってきたので、私は部屋を出て台所へと向かった。