ばいばい、津崎。


たしかに今日はいつもより暑い。朝のニュースでは最高気温が35℃以上になるって言ってたような気がする。


「だから俺の部屋は狭いしエアコンないけどいいのって聞いただろ」

美貴の言葉にやる気を失った剛がシャーペンをテーブルに置く。

剛の部屋は狭いというより、アニメのフィギュアとグッズで溢れている感じ。美貴は勉強に飽きたように頬杖をつきながら、指先で髪の毛をくるくるとさせる。


「だって剛の部屋なら散らかしても大丈夫そうじゃん」

「散らかすつもりで来たのかよ」

ふたりが言い合いをしてるのを止める気力がないほど、私も暑さで頭が回らない。

ふと、隣を見ると騒がしいのも気にせずに、津崎が珍しくプリントと向き合っていた。


「つ、津崎が勉強してるところなんて初めて見た……」

課題なんてくだらねえ、とか言いそうなのに、私よりも進めるスピードが早い。


「お前は授業中けっこう真面目なのに、あんま頭よくねーよな」

「……津崎よりはできるよ!」

「じゃあ、この問題わかる?」

津崎が指さしたのは数学の問5の数式。しかも私の苦手な因数分解。私が頭を悩ませていると津崎がバカにしたように鼻で笑った。


「やっぱりできねーじゃん」

「つ、津崎だってどうせ解けないでしょ!」とムキになったところで、「ふたりともうるさいよー」と、先ほどまで騒がしくしていた美貴に叱られてしまった。

結局、勉強モードじゃなくなってしまった私は気分転換に立ち上がる。


「剛。コップと氷借りてもいい?みんなの飲み物もぬるくなっちゃったでしょ?」

ペットボトルの飲み物は半分以上残ってるし、だったら氷を入れて冷やしたほうがいいと思って。


「うん、勝手になんでも使っていいよ」と返事が返ってきたので、私は部屋を出て台所へと向かった。

< 163 / 212 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop