ばいばい、津崎。


哲平の顔は真剣だった。

哲平は本当に変わらないね。そうやってまっすぐなまま大人になり、26歳のきみも同じ瞳の色をしている。

未来の哲平は私より一枚も二枚も上手だけど、今の哲平より人生経験が多少ある私は動揺している気持ちを隠すことぐらいはできる。


「その聞き方はズルいと思うな」

私はそう言って、コップをふたつ手に取った。

振るよ、なんて言いづらいし、振らないよ、と言えば受け入れたことになる。哲平は「うん、わざと」と真剣な顔から柔らかい表情に戻った。

「だって、俺も振られるのはイヤだし」と、残りのコップを哲平が持つ。


「でも、そういう気持ちだってことは覚えておいて。もう少し俺が成長して自分に自信がついた時に、ズルくない言い方でちゃんと皐月に伝えるよ」

手の中にあるコップの氷がカランと、崩れた。


10年前の出来事をなぞっているわけじゃないのに、きっと哲平との未来は同じものになる予感がした。

傷つけたくないから、なるべく友達関係のままでいられるような距離感でいたのに。

もしかしたら、無数に枝分かれしているだけで、最後にたどり着く道は同じなんじゃないかと、考えた。

だとしたら、津崎は?

イヤなことが頭をよぎる。


――と、その時。ガタッと物音がして哲平と一緒に後ろを見ると、津崎がいた。


「い、いつからそこに……?」

津崎は私の質問には答えずに「遅いからあいつらが見てこいって」と、ひと言だけを返して剛の部屋へと戻っていく。


これは私の勘だけど、絶対哲平との会話を聞かれていたと思う。

< 166 / 212 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop