ばいばい、津崎。
「津崎が私のこと、なんとも思ってないことぐらいわかってるよ。べつに私だって津崎とどうこうなりたいとか高望みしてるわけじゃない」
唇がペラペラと勝手に動く。どうしよう、止まらない。
「ただ、それでも、津崎になにか悩みがあるなら教えてほしいって思ってる。あの薬だって風邪薬なんかじゃないって、私は知ってるよ」
胸につかえているのに聞けないもどかしさがずっとあった。
いつか話してくれるかもしれないという、いつかを待つ時間は限られている。だってもうすぐ7月が終わってしまう。
「話してよ、津崎。小さなことでもなんでもいいから」
きみと特別になれなくても構わない。あの、悲しい未来を防げるのなら。
「お前には話さない」
津崎の声がやけにクリアに聞こえた。そして繰り返すように、津崎は私をまっすぐ見つめる。
「お前にだけは、言いたくない」
そう言って、津崎は歩き出した。
空は熟した蜜柑のような色をしていて、うろこ雲が風にのって海がある方角へ流れていく。
私は遠く、遠くなっていくの津崎の後ろ姿を呆然と眺めることしかできなかった。