ばいばい、津崎。


どうやらふたりは本当に用があったわけじゃないようで、雑談をしながら話は来月行われる灯籠(とうろう)祭りのことになった。


島で毎年、送り盆の日にやっている祭りで、名前のとおり火の灯った灯籠をみんなで海へと流す。

たしか第二次世界大戦の時に、この島で少年兵がたくさん犠牲になったことがはじまりのきっかけで、死者の魂が安らかに眠れるように灯籠で送り出すのだ。


「みんなで行こうよ。私浴衣着ていくからさ」と美貴が隣で言っていて、灯籠流しの他に出店なども並ぶため、大半の人が夏の風物詩として参加する。


10年前も、たしかみんなで行ったはず。

好きなものを食べ歩きながら、最後に用意された灯籠を海へと流した。そして楽しく帰り、その五日後に津崎はいなくなった。


そんなことになるなんて、誰も想像してなかったし、帰り際には『来年もみんなで行こうね』なんて、話をしていた。

本当に、本当に誰も津崎の変化に気づけなかったのだ。

だから私は未来から、ここにきた。それなのに、まだ津崎の心に触れられずにいる。


――『お前にだけは、言いたくない』

なんで?どうして?

私は繰り返したくない。きみを二度も奪われるわけにはいかないのに、津崎がひどく遠い人に感じてしまう。

そんな中で美貴が突然、剛に話を振る。


「そういえば昨日はどうやって健ちゃんを家まで連れてきたの?」

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