ばいばい、津崎。
お祭りは18時30分からで、会場となる場所でみんなと夕方に待ち合わせすることになった。
津崎は本当に来るだろうか。
メールや電話も今なら繋がるけれど、また臆病な自分が顔を出して連絡はしていない。
『お前には話さない』と言われたことが実はまだ引っ掛かっているのだ。
「う……お母さん、苦しい」
「ちょっと動かないで!」
お母さんは私の部屋にある合わせ鏡の前で、白色の帯を腰にきつく巻いている。
美貴に浴衣を着ていこうと言われたけれど、動きにくいし、どうせ似合わないからと、いつもの楽な服装で行くつもりだった。
でも、それをお母さんに話すと桐タンスの中から浴衣を用意してくれて、私の意思とは反対にこうして着付けてくれている。
昔、着物教室に通っていたことがあるお母さんは帯を可愛い蝶結びにしてくれて、髪の毛を左耳の下のほうでひとつにまとめて、最後にべっ甲色の桜のかんざしを付けてくれた。
「ほら、できた」
お母さんは後ろで、とても満足そうな顔をしている。
浴衣は淡い青色で、椿柄。鏡に映る私はなんだか自分じゃないみたい。あんなに着ることに気乗りしてなかったのに、少しだけ胸が弾んでしまった。
「ちゃんと絆創膏持っていきなさいよ。あとあまり遅くならないようにね」
「うん」
麻の葉模様の巾着を持ち、私は玄関で桐下駄を履いた。