ばいばい、津崎。
台風による暴風雨がひどくなり、着ていた洋服も履いていたスニーカーも髪の毛もなにもかもがびしょ濡れになっていた。
「……津崎っ、どこ?」
なかなか返事が返ってこなくて、私はもう一度聞いた。すると、静かに携帯から、声が聞こえてきた。
『山本』
低くて、心地いい津崎の呼び掛け。私は平静を取り戻すために「ん?」と、柔らかく返す。
少しの沈黙。そしてざわめく木々の音なんか聞こえないみたいに、津崎の声だけが胸にスッと入ってきた。
『俺、お前に嘘ついてたよ』
津崎の声が震えていた。
「……嘘……?」
雨で濡れたせいなのか携帯を持つ指先が冷たい。
『ここからは黙って聞いて。相づちもしないでいいから、聞いて』
津崎の言葉に、私は自然とコクリと頷く。そして津崎はゆっくりと語り始めた。
『俺、お前といるとなんかおかしくなるっていうか、胸の奥がざわざわする感覚にいつもなってた。だから、お前には知られたくない。そう思ってたけど、やっぱりお前にだけは、本当のことを言っておこうと思って』
「………」
『俺、もうダメなんだよ』
どこかで落雷が起きたように、灰色の雲がピカンッと光る。前髪からはポタポタと雫が滴り落ちていて、膝から崩れ落ちそうなほど体に力が入らない。