ばいばい、津崎。
『俺、心臓に大きな腫瘍があって、去年の夏にはすでに手術できないほど進行してた。薬だけでなんとか過ごしてきたけど、もう他のところにも転移してて、どうにもならねーんだ』
周りは強風でうるさいはずなのに、やけに静かに感じる。
『それでも母さんは諦められないって、この前親戚の家にお金を借りに行ったりしたけど、自分のことは自分でわかるから、たぶん、俺、もうすぐ死ぬと思う』
――もうすぐ、死ぬ。
その言葉を心の中で繰り返して、耳の奥でキーンと不協和音のような音がずっと鳴っていた。
『心臓腫瘍ってさ、心臓病でも全体の0.1%しかなくて、その中で良性は80%なんだ。つまり俺は0.1%の確率で病気になって、20%の運で悪性だったってわけ』
「………」
『本当は誰にも言うつもりはなかった。母さんにも絶対に言うなって口止めしてたし、自分のものとか色々整理して、最後はばあちゃんの家にでも身を寄せようって考えてた』
津崎は底知れぬ恐怖と、ひとりで戦っていたのだろう。ずっと津崎の心を知りたかったくせに、こうして真実を知って、私の足は小刻みに震えている。
『バレたくなかったんだ。ずっと突っ張って不良だった俺が病気に負けて死ぬなんて、知られたくなかった。だけど、お前に黙っていた理由はちょっと違う。お前は他の人とは違うから。……言ったら、俺のほうが耐えられなくなると思って』
「……っ」
涙が止めどなく溢れた。
津崎のほうが何倍もツラいのに、ヒクヒクと私の弱い声はスピーカー越しに伝わってしまってると思う。
『あの時、お前の気持ちを聞きたくないなんて言ってごめん。本当は聞きたかった。でもずっと一緒にはいられない。いられないから、俺への気持ちなんて捨てて、他の人と幸せになってくれたらいいって、思ってた』
「……津崎っ……」