ばいばい、津崎。
電話の向こう側で、ザバーン!と大きな水しぶきの音が聞こえた。私はほどけかかっていた靴紐をぎゅっと結び直して、「今、そっちに行くから待ってて!すぐに行くから!」と、涙を拭った。
津崎はあの場所にいる。
防波堤の特等席。
私はずっと勘違いしてた。
津崎がこの嵐の中、海に向かったのは、内に秘めていた悩みに勝てずに身を投げにいったからじゃない。
津崎はあの場所で、奮い立たせていたのだ。
死にたくない、と。
迫り来る命の期限に抗いながら、ひとりで戦っていただけ。いつも、いつも海をぼんやりと見ていたのは、光景を目に焼き付けるわけじゃなくて、明日も変わらずに来れるようにという、津崎の願いの表れだったんだ。
ハアハア、と私は全力疾走で津崎の元へと向かう。
10年前は出来なかったこと。気づけなかったこと。私は取り戻したかったのは、きみが笑っていられるような未来。
後悔を残したのは、津崎もきっと同じ。
――『俺への気持ちなんて捨てて、他の人と幸せになってくれたらいいって、思ってた』
ごめん。私も津崎に嘘をついてた。
私は津崎と名前のない関係でもいいなんて思っていたけれど、そんなのは嘘。