ばいばい、津崎。
もう悲しい未来はこない。
明日から、ううん。今から、私たちは今まで以上に寄り添って生きていく。
津崎が私の涙を指で拭い、私も同じように津崎の涙を指先で拭いた。
「ねえ、津崎。そういえば私、もうひとつだけ言ってないことがあった」
「ん?」と、津崎が首を傾げたところで私は眉を下げてニコリと口角をあげる。
「私が未来から来てるって言ったら、どうする?」
すると津崎はきょとんとした顔をしたあと「フッ」といつものように笑みを浮かべた。
「やっぱりヘンなヤツだって、笑うよ」
私が顔をくしゃりとすると、津崎は首筋に張りついていた私の髪の毛を指先ですくい、そのまま右耳へとかける。
くすぐったい気持ちと、津崎があまりに陽だまりのような瞳で私を見るから、心がじわりと暖かくなる。
「山本」
津崎が私の名前を呼んだ。
そして、津崎の手が頬を包むように添えられて、私たちは甘く優しいキスをした。
そのあと津崎と私は毎日一緒に過ごした。病気のことも津崎の意向で美貴と剛と哲平にやっぱり伝えたいということになり、包み隠さず全てを話した。
みんな最初は信じられないって顔で泣いていたけれど、津崎の揺るぎない表情を見て『話してくれてありがとう』と、津崎の最後をみんなで見届ける覚悟をした。
そして、あの嵐の日から10日経った8月31日。
みんな見守られながら、津崎は自宅で眠るように息を引き取った。とても安らかで、綺麗な顔だった。