ばいばい、津崎。
8: 海色―Umi―iro
*
――ピピッピピッ。
枕元でスマホのアラームが鳴っていた。私は寝ぼけ眼(まなこ)で音を止めて、ベッドから起き上がる。
必要最低限のものしか置いていない片付けられた部屋。エアコンを付けっぱなしで寝たせいで、少し喉が痛い。
私は顔を洗いに、洗面所へと向かった。蛇口のレバーを下に向けてぬるま湯を出す。優しくパシャパシャと水を顔につけると、ようやく頭がスッキリするように目が覚めた。
目の前の鏡に写る自分の姿。
それは幼い面影を消した、26歳の私。そう、私は未来へと帰ってきたのだ。
津崎の最後を見届けて、お通夜や葬儀が終わって、一段落した日の夜。意識を失うように眠りについて、次の日目覚めると……。
島ではなく、大宮の自宅に帰っていた。慌てて日付を確認すると、私がトリップした10年後の7月2日に戻っていた。
あの時の感覚は言葉では表せないけれど、長い夢から覚めてしまったかのように気持ちがふわふわとしていた。
スマホを確認すると剛から【昨日、飲みすぎてたけど大丈夫?】とメールが届いていて、そういえば日本酒に手を出して酔っていたことを思い出す。
だけれど二日酔いはなく、むしろお酒なんてずいぶん飲んでなかったかのように胃がスッキリしていた感覚が、本当に不思議だった。