ばいばい、津崎。
私は結局、赤羽では下りずになんとか新宿までたどり着いた。駅のホームに下りると、いつもどんよりとした空気なのに電車からの解放感で、やっと大きく息を吸うことができた。
通勤へと急ぐ人たちに押されるように階段を上がって、みんな競歩でもしているように足を止めることはない。
スマホの時計は9時。10時開店のアパレルショップは遅くても9時半には出勤しなければいけない。
むし暑かった車内に比べればマシだけど、今日の気温は32℃。駅構内と人混みで、さらに気温は上昇中。
東京は高層ビルが多いから太陽の照り返しはきついし、排気ガスで空気は汚いし、海がないから潮風も吹かない。
同じ夏でもあの場所は――って、なにを私は思い出しているんだろう。
頭に浮かんできた風景に胸を詰まらせながらも、私は流れ作業のように改札口を抜けた。
外に出ると、やっぱり風はない。
本当は、食欲がないのも、眠りに落ちるのが遅いのも、私はただ夏という季節のせいにしているだけ。
だって、色濃く思い出してしまうから。
なんの前触れもなく、いなくなってしまったきみのことを。