ばいばい、津崎。
言われなくても、わかってる。
津崎がもういないことぐらい。
どんなに願っても、戻ってこないことぐらい、わかってる。
でも、どうしたって考えてしまう。
津崎は最後の瞬間、どんな顔をしてしていただろう。
どんな気持ちで、あの海に行ったんだろう。
私は哲平と別れたあと、電車に乗って大宮の自宅まで帰った。家に着いて、無意識にエアコンのリモコンへと手を伸ばすと、そのまま化粧も落とさずにベッドへと倒れこむ。
今日はなんだか色々なことがあった。
救急車で運ばれて、美貴の家に行って、剛と飲んで、哲平と話した。どの出来事にも津崎が関係していて、今も目を瞑ると浮かんでくるあの顔。
ねえ、津崎。
こんなことを言ったら、私はもっと弱くなってしまうけど、会いたくてしかたがない。
もっと、言いたいことがたくさんあった。
一緒にやりたいことも数えきれないほどあったのに、なにひとつ叶うことができない。
きみを失って、むせび泣いたあの夏。
その涙には色々な感情があったけど、一番は悔しさ。
津崎がなにも言ってくれなかったからじゃない。
悔しかったのは、あんなに一緒にいたのに、なにひとつ気づくことができなかった自分に。
津崎が強い人だと決めつけていた私自身に悔しくて涙が出たんだよ。
会いたいよ、津崎。
それで、もう一度やり直すの。10年前のあの日から、きみがいたあの夏から――。
私はうわ言のように津崎の名前を呼びながら、
そのまま意識を失うように眠りについた。