ばいばい、津崎。
……これは一体、どういうこと?
状況が理解できずにその場に立ち尽くす。夢に決まっていると必死に言い聞かせながらも、この潮の香りや島特有のもわっとした暑さは妙に現実味がある。
私が頑(かたく)なに島に帰ることを拒んだから、こうしてリアルな夢を見てしまったんだろうか。
……きっとそうだ。そうに決まってる。
じゃなきゃおかしい。
私はとっさに頬をつねってみた。痛さと同時に夢から覚めることはなく、ただ憎らしいぐらい綺麗な海が広がっているだけ。
私はふらふらと坂道をのぼって家へと向かう。
築50年の平屋建て。島では一般的な横に長い建物の造りで、それは私が高校を卒業するまでに住んでいた実家でもある。
玄関のドアの立て付けの悪さも昔と同じで、コツを覚えなければスムーズに開かない。
私はビーチサンダルを脱いで、廊下を進む。トイレやお風呂も夢とは思えないほど当時のまま。私は懐かしさよりも怖さのほうが先立っていて、確かめるように足は洗面所へ。
そこにある鏡の前に立って、私は〝私〟と向き合った。
……ドクン、と心臓が大きく跳ねる。
映っていたのは26歳の私ではなく、16歳の私だった。
脱色していない黒髪に、肩まで伸びたストレートのセミロング。幼さがまだ残るその顔は、素顔なのになんのくすみもなくて、私はもう一度強く頬をつねってみたけれど、痛さが残るだけで状況はなにも変わらない。