ばいばい、津崎。
……と、その時。洋服のポケットの中でスマホが振動していた。私は音楽をつけたまま、届いたメッセージを確認する。
【皐月、久しぶり。元気にしてる?来月、みんなで集まらない?都合が良い日があったら教えて】
それは高校時代の友達の鮎原美貴(あゆはらみき)からだった。
私は返事をしないで、〝みんな〟という文字ばかりを見つめていた。
懐かしいし、私も会いたい。だけど、そのみんなの中にきみはいない。
そう思った瞬間に、イヤホンから聴こえてきたのはきみが好きだと言っていた曲。
こんなのダウンロードした覚えはないのに、なんで入ってるんだろう。……いや、酔っ払った時になんだか無性に聴きたくなって取ったんだっけ。
あんまり覚えてないけれど、なんでこのタイミングで流れるのかな。
吐き気がおさまったはずなのに、今度はぐるぐると視界が歪む。
ねえ、津崎。(つざき)
きみのいない10回目の夏がきたよ。
私は大人になった。
仕事もして、ひとり暮らしをして、お酒で嫌なことは忘れられるようになった。
なのに、なんでかな。
きみのことだけは、忘れられない。
忘れたことなんて、一度もない。
津崎。今どこにいるの?
どこに、行っちゃったの?
私を置いて、どうして、いなくなったの?
――バタン。私は心の中で呼びかけながら、そのまま地面へと倒れて意識を失った。