ばいばい、津崎。
私が自ら遠ざけた島は、そんな気持ちごと受け入れてくれているように優しい夕焼けを降り注いでくれる。
温暖な気候で育ったミカンやスモモやプルーンの木々が風に揺れていて、甘い香りを運んできた。
「津崎の家はこの先だよ」
坂道を登りながら美喜が頂上付近を指さした。
島の地形は断層のように高くなっていて、上り坂の周りには白い柵が囲ってある。上へ行けば行くほど頬に当たる潮風は強くなって、どこを見渡しても瀬戸内海が広がっていた。
やっぱり私は海を見ると胸がひどく痛む。
あの頃に感じていた苦しさがよみがえってくる感覚がした。私は早くそれを打ち消したくて自然と歩くスピードを上げていた。
津崎の家はうちと同じで、瓦屋根の平屋建てだった。
潮風さらされている外壁にはヒビがはいっていて、庭にはもぬけの殻の犬小屋がぽつりと置かれている。
……津崎がここにいる。
私は流行る気持ちを必死で抑えながら、ゴクリと唾を飲み込んだ。
すると私の心の準備なんて知らない美喜はすぐに家のインターホンを押してしまった。しかもピンポーンピンポーンと連続で。
だけど、中から応答はない。