ばいばい、津崎。
「寝てたのになんの用?」
「いや、用は私じゃなくて」
ふたりの会話が耳に響く中、美喜が私のほうを見た。
「ほら、用があるのは皐月でしょ?」
そのまま私は腕を引かれて玄関が前に立たされる。
ドクンッ……と、心臓が大きく鼓動した瞬間に中から手が伸びてきて、ガラガラと玄関のドアがすべて開いた。
――そこには、会いたくて恋しくて仕方がなかった津崎の姿。
黒い短髪に、キラリと光る右耳のピアス。同級生の男子たちよりも大きな体つきと広い肩幅。
そして不機嫌な顔も、視力があまり良くないからと目を細める癖も、なにひとつ変わっていない。
目頭が熱くなって、気を抜いたら泣いてしまいそう。
津崎だ。津崎がいる。
もう夢でもなんでもいい。
今すぐにでもその胸に飛び込んでしまいたい。
涙を必死で堪えながらゆっくりと手を伸ばすと、私の想いとは裏腹に津崎の冷めた言葉が飛んできた。
「睡眠の邪魔だ。帰れ」
ガンッと、勢いよく閉められてしまったドア。
しかも念入りに鍵までかけられてしまい、行き場のなくした私の手がまだ宙に浮いたまま。
え、ま、待って待って。
感動の再会のはずなのに、全然感動的じゃない。