ばいばい、津崎。
「赤外線しようよ」
美喜がカチカチと携帯に触った。
赤外線とか懐かしいと思いつつも「えっと……」と、操作に戸惑っているのは完全にガラケーの使い方を忘れてしまっているから。
そのあとなんとか連絡先を交換することができて、美喜は「また明日ねー」と、家路へと歩いていく。
私はその後ろ姿を見ながら自転車にまたがって、ペダルを漕ぎはじめた。
車もほとんど通らない長閑(のどか)な道では野良猫が毛繕いをしていて、その横を手押し車を押した老人がゆっくりと通りすぎる。
穏やかな海に反射する夕焼けはオレンジ色から燃えるような赤色に変わっていて、直視できないほどまん丸な夕日が眩しかった。
……まさかこんな風に1日の終わりをまた島で過ごすことになるなんて思わなかった。
今朝の時点ではまだ違和感があった制服は肌に馴染んで、膝上のスカートが風で揺れても気にならない。
下り坂の次は再び上り坂。
家へと続く傾斜を立ち漕ぎで進んで、私は屋根に取り付けてある雨どいの下に自転車を停めた。
玄関を開けると、実家の匂い。
まだお母さんは仕事から帰ってきてないみたいで、私はすぐに自分の部屋へと向かった。