ばいばい、津崎。
「はあ……」と倒れこんだベッドも私がずっと使っていたもののはずなのに、大宮の家のベッドとは違う匂いがする気がした。
使い勝手ばかりを優先したシンプルなあの部屋と違って、ここはごちゃごちゃと物が多くて色合いに統一感がない。
未来でもこの部屋は当時のままで残っているとお母さんは言っていた。
『人が出入りしないと逆にホコリが溜まるから掃除が大変だ』と、私に会うたびにぼやいているから。
『物置部屋にでもしていいよ』と毎回伝えているけど、そうしないのはお母さんも私に島に帰ってきてほしいと願っているからだと思う。
帰れない償いの代わりに、これで楽しく過ごしてと、私は仕送りをする。
そんなことをしてもなんの親孝行にならないことは分かっているのに。
そんなことをぼんやりと考えている内に急激な眠気に襲われた。
久しぶりの学校は仕事に行くよりも、なんだかとても疲れた気がする。
……津崎の顔、少ししか見られなかったな。
言いたいことがたくさんあったはずなのに、一瞬の出来事すぎてなにも言えなかった。
そもそも現時点の私は津崎との接点なんてない。涙ながらに会えた嬉しさを伝えたところでドン引きされてしまっていたかもしれない。
津崎と私の関係がはじまったのはいつだっけ。
学校じゃないし、行事ごとでもない。たしか津崎とは……。
と、その時。コンコンとドアがノックされて私は慌ててベッドから起き上がる。
「皐月、リビングに来て」
それはお母さんの声。
眠気のせいで帰ってきていたことに気づかなかった。