ばいばい、津崎。





目が覚めると、そこには白い天井が広がっていた。鼻を通り抜けるのは消毒薬のような独特の匂い。

何故か腕には点滴の針が刺さっていて、それは管(くだ)と一緒に銀色のスタンドと繋がっていた。


「あら、目を覚ましたのね」

誰かに声をかけられて視線をずらすと、そこには40代ぐらいの看護師がいた。


……どうやら、ここは病院らしい。

記憶がぷつりと切れてしまっているけれど、目眩がして視界が歪んでいたところまでは覚えている。


「あの、私……なんでここにいるんですか?」

点滴の様子を見ている看護師に声をかけた。


「駅の前で倒れてるところを通行人の人が119番してくれたのよ。ここは西口の総合病院」

つまり私は救急車で運ばれたってこと?

健康だけが取り柄の私がまさか公衆の場で倒れる日がくるなんて……。


「大丈夫。ただの貧血よ。今点滴で栄養剤を入れてるからあと10分は動かないでね」

「……はい」と素直に返事をしたけれど、じっとしてはいられないことが頭に浮かんできた。


「あの、今何時ですか?」

それは仕事、という二文字の言葉。


「10時30分よ」

「……え!?」

慌てて起き上がろうとしたけれど、看護師に「だからまだ動かないでね」と止められてしまい、私の身体はまたベッドへと戻った。
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