ばいばい、津崎。
*
目が覚めると、そこには白い天井が広がっていた。鼻を通り抜けるのは消毒薬のような独特の匂い。
何故か腕には点滴の針が刺さっていて、それは管(くだ)と一緒に銀色のスタンドと繋がっていた。
「あら、目を覚ましたのね」
誰かに声をかけられて視線をずらすと、そこには40代ぐらいの看護師がいた。
……どうやら、ここは病院らしい。
記憶がぷつりと切れてしまっているけれど、目眩がして視界が歪んでいたところまでは覚えている。
「あの、私……なんでここにいるんですか?」
点滴の様子を見ている看護師に声をかけた。
「駅の前で倒れてるところを通行人の人が119番してくれたのよ。ここは西口の総合病院」
つまり私は救急車で運ばれたってこと?
健康だけが取り柄の私がまさか公衆の場で倒れる日がくるなんて……。
「大丈夫。ただの貧血よ。今点滴で栄養剤を入れてるからあと10分は動かないでね」
「……はい」と素直に返事をしたけれど、じっとしてはいられないことが頭に浮かんできた。
「あの、今何時ですか?」
それは仕事、という二文字の言葉。
「10時30分よ」
「……え!?」
慌てて起き上がろうとしたけれど、看護師に「だからまだ動かないでね」と止められてしまい、私の身体はまたベッドへと戻った。