ばいばい、津崎。
制服からラフな服装に着替えた私は言われたとおりリビングへと向かう。
テーブルにはサラダが盛られたお皿が並んでいた。
「ちょっと早いけどもうご飯にしよう。皐月はどのくらい食べられる?」
台所の換気扇から漂ってくるカレーのいい匂い。お母さんは炊飯器を開けて炊きたての白米をしゃもじで下から混ぜ合わせる。
「聞いてる?ご飯の量どのくらい?」
「え、ああ、普通で大丈夫」
一番さじ加減が分からない〝普通〟もお母さんがよそってくれるご飯の量はいつも絶妙で、さすがは親だなって思う。
「カレーは自分でやってね」と、ご飯がよそわれたお皿を渡されて私はカレーが入っているお鍋のフタを開ける。
私の大好きなひき肉のカレーをご飯にかけながら、まだどこか夢の中にいるような感覚がしていた。
そのあとテーブルを挟んで向かい合わせにお母さんと座った。そして麦茶をコップへ注いでくれているお母さんに私はひと言。
「ねえ、私って高校生?」
「え?どうしたの急に?」
お母さんはまるで鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしていた。私は間を開けずにさらに続ける。
「お母さん今めっちゃ通販でダイエットグッズ買ってるでしょ?未来ではなんの意味もなかった、お金の無駄使いだったって言ってたよ」
これは確認というか、言葉にすれば自覚も生まれると思って。
「ど、どうしたの、皐月……。どこかに頭でもぶつけた?」
お母さんが心配そうに、おろおろしていた。
そうだよね。当然の反応だ。
私もなにか大きな衝撃でもあったら納得できるんだけど、残念ながら頭はぶつけてないし、おかしくもなってない。
お母さんはそのあとも大丈夫?としきりに聞いてきたけど、なんとか誤魔化して私はカレーを食べはじめた。