ばいばい、津崎。
私はその夜、久しぶりに実家のお風呂に入った。
夏でもシャワーではなく浴槽に浸かるのは、そうしないと疲れが取れないからとお母さんが言うから。
狭くて足も伸ばせないどころかお湯炊き機能なんて付いていないから、すぐに温度が冷めてしまう。
熱気が逃げていかない脱衣場はお風呂でさっぱりしたっていうのに、額に汗が滲むほどモヤッとしている。
私は濡れた髪を乾かしたあと、自分の部屋へと向かった。
窓からは涼しい風が入ってきて、お風呂上がりで火照った顔には気持ちがいい。
湯冷めしない程度に熱を逃がして、私は壁掛け時計を確認した。時刻は21時。
お母さんはお風呂に入っていて、長湯だから一時間は出てこない。私はこっそりと玄関でサンダルを履いて、バレないように外へと出た。
夜の島は驚くほど静かだった。
私は自転車を走らせながら髪の毛を夜風でなびかせる。辺りは鳥や虫の鳴き声はなく、聞こえてくるのは海のさざ波の音だけ。
カラカラと自転車の車輪が回るたびに蛍光反射のステッカーが円を描いて、暗闇の道をライトが照らしている。
5分ほど走ったあと私は自転車を降りた。
着いたのは海中に設置されている細長い形状の防波堤。その下には消波(しょうは)ブロックが積み重なるように置かれていて、小さな波が一定の間隔で打ち寄せている。