ばいばい、津崎。
昔もこうして、よく家を抜け出していた。
島に引っ越してきた14歳の頃は、環境に馴染むことができずに毎日なにをしてもつまらなく感じていたから。
早く島を出たいという気持ちから夜の海へときて、ひとりで水面に浮かぶ月を見てはため息をつく。
そして、そこには必ず先約がいた。
私は話しかけることはなく、その人が先に防波堤にいれば別の場所で膝を抱えて海を眺める。だけど、どうしても気になってしまうその人影。
この人は、なぜ海にいるのだろう。もしかして私と同じ気持ちなんじゃないかって、そんな期待をしてある日、声をかけたのだ。
「こんな時間になにしてるの?」
そう、こんな風に。
防波堤の先端にあぐらをかいて座る背中が、ゆっくりと私のほうを見た。
月明かりに照らされた〝津崎〟は射るような眼差しをしていて、まるで狼みたいだった。