ばいばい、津崎。


「あ、お前今日うちに来た……」

津崎は私を他人のような瞳で見るけれど、島には小中高と学校がひとつずつしかないため、私は中学2年生からだけど同じ中学だったし今だって同じ高校なのに。

津崎は私と一緒で、あまり人に興味がない。

だから私のことも島に住んでるヤツっていう薄っぺらい認識しかしていないのだろう。


「名前ぐらい覚えてないの?」

過去に来てからはじめて問いかける第一声。


「山田、だっけ?」

絶妙に近くて遠い回答。それは私たちの距離感を表すかのようで、鼻の奥がツンとした。


「山本だよ」

名字は平凡であまり好きじゃない。でも津崎が呼んでくれる名字はとても好きだったし、他の人たちが私を名前で呼んでも津崎は最後まで呼び方を崩すことはなかった。


「ああ、山本ね」

久しぶりに呼ばれてグッと感情が込み上げてきているっていうのに、ものすごくどうでもいいような冷めた言い方。


津崎はまた視線を海へと戻して、ただ穏やかに揺れる水面を見ていた。


……ああ、ヤバい。泣きそう。

涙腺は弱いほうじゃなかったのに、悲しい未来を知っているせいで、その後ろ姿さえ目が霞んでよく見えない。

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