ばいばい、津崎。
私はいつも津崎とどんな話をしてたっけ?
昔のことすぎて、ひとつひとつ再現することはできない。だけど同じことを繰り返さないように、私は今10年前の世界にいる。
津崎を二度と、失わないために。
「……津崎ってよく海にいるよね。なんで?」
いつでも聞くことができると後回しにしてしまったことが山ほどある。これもそのひとつ。
「ってことはお前も海にいるってことじゃん。なんで?」
きっと過去の私だったら『関係ないでしょ』と突っぱねていたと思う。
「……この島が特殊すぎて苦手だから、かな」
私の声は波の音にさらわれてしまうほど小さかった。
東京ではすれ違う人はみんな他人で、知り合いに出逢うことなんて滅多にない。
でもこの島ですれ違う人はみんな顔見知り。だからなにか悪さをすれば総攻撃をされるし、良いことをすればみんなからべた褒めをされる。
そういうひとつの世界のように成り立っている島の環境が私はすごく生きづらかったのだ。
すると、津崎は考えるように私をじっと見つめてきた。その曇りのない瞳に自然と心臓が速くなる。
「そんな素直に話してくれるんだ。親しくもねーのに」
津崎はフッと、鼻で笑った。
ちょっと悪意がある言い方だったけれど、私の精神年齢が上がっているおかげで腹は立たない。
たしかに今の時点では親しいとは言えない。
でも、津崎は私の人生を変えてしまうほどの大きな人になるんだよ。
私は津崎にとって、どうだったかな。
一番近くにいたと思っていたのは私だけだった?
心に秘めた〝なにか〟を誰にも言うことはなく、きみは私の前から消えてしまった。
この、目の前に広がる海の中に――。
「急に黙るなよ」
津崎の言葉で、私はハッと我に返った。